院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ

  

 

「謝」

 

年末に、今年の漢字が発表された。2016年は「金」であった。リオデジャネイロオリンピックでの日本人選手のゴールドラッシュに因んでのことだろう。私個人的な昨年度の漢字は「謝」としたい。謝る意味での「謝」ではなく、感謝の「謝」である。昨年、開業して満5周年を迎えた。何かといたらない私を支えてくれたクリニックの職員はもとより、職場と家庭での細君の活躍にも「謝」である。何より患者様に「謝」である。開業前は、患者に様をつけるのにも少し抵抗のあった私だが、今はもう患者様々である。診療報酬のためだけではない。混み合っていて、長いこと待たせてしまった患者様が、「お客さんいっぱいで、よかったね」と喜んでくれる。お昼を過ぎて診る患者様が、「先生、お昼食べる時間ある?」と気遣ってくれる。「謝謝」中国語で感謝を表す言葉。英語では 「Thank you.」。日本語は「有り難う」である。有り難うは文字通り解釈すれば、「あり得ない」。「あなたが、そんなことをしてくれるなんて、あり得ない。その奇跡的な行為に足して、わたしはただただ感謝申し上げます」という回りくどい表現が、日本語的で私は好きである。

20世紀の著名な物理学者アインシュタインは、There are only two ways to live your life. One is as though nothing is a miracle. The other is as though everything is a miracle. (生き方には2種類ある。一つは、奇跡などまったく存在しないかのように生きること。もう一つは、すべてが奇跡であるかのように生きることだ)と言った。けだし名言である。奇跡に対して、人は素直で純真な感謝の心を抱く。その素直な気持ちを忘れないため、2016年の私の漢字は「謝」なのである。さて、誤解を恐れずに言うと、感謝することは誰にでもできることである。その気持ちを、言葉で伝えるだけでなく、行動としてどう応えるか。それを厳しく自分に求めていこうと決意を新たにする年の初めである。

 

 




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